人間は誰しも恐怖心を持っている。
高い場所は怖いし、
見たことの無いものを触るときは
慎重になる。
私はそう思っていた。
この男に出会うまでは。
次男のコージ。
慎重派の長男に比べて、
次男は怖れを知らない。
突然椅子を動かし
ダイニングテーブルによじ登る。
引き出しや扉は
いつもいつも開ける。
さらには、
引き出しに足をかけて這い上がる。
目の前にあるモノは
何でも触るし、口に入れる。
長男ショータのときは
こんなことは無かったのに。
コージには怖れというものがないのか。
怖れを知らないことは
生命の危機に気付かないこと。
親としては、不安で目が離せない。
コージも1歳になり、
行動範囲はさらに拡大しつつある。
そんなある日、
仕事でバタバタして、
子供たちの保育園の迎えが
最後になってしまった。
2人を迎えに行くと、
コージが酷く怯えていた。
何かから逃げている。
すぐに分かった。
保育園の共用スペースに
全自動お掃除ロボットが走っていた。
なるほど。
この男は
「Roomba(ルンバ)」が怖いらしい。
確かに怪しい光を放ち、
右往左往走る様は不気味かもしれない。
これは使える。
帰宅後、
私は4年前に購入したルンバを
家の中に解き放つことにした。
子供たちが小さいうちは
危ないからと
クローゼットの奥に片付けていたが、
事情が変わった。
コージに
世の中には怖いモノがあると
教えなければならない。
その日から、
我が家のルンバは、
コージの監視役となった。
ひと声「ルンバ!」と叫べば
ダイニングテーブルによじ登るのを
中断する。
調子に乗って眠らない夜も
「ルンバ!」と叫べば
布団に入る。
コージの怖がり方を見ていると
「ルンバ!」が
あの有名な映画の
「貞子」のように見えてきた。
少し可哀想な気もするが、
致し方ない。
恐怖心というのは、
生きていく上で欠かせない要素である。
大切なことを
教えてくれてありがとう、ルンバ。
だが、
この魔法が解けるのも時間の問題。
結局、今日も目が離せない。
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