父の名は

育児

この国には2種類の父親がいる。

ひとつは「お父さん」と呼ばれる父親。

もうひとつは「パパ」と呼ばれる父親だ。

約3年前、

長男のショータが生まれたとき、

私は「お父さん」になる

心積もりでいた。

ショータは1歳の誕生日が近づくと、

「ブーブー(車)」や

「まんま(ご飯)」など

意味のある言葉を発するようになった。

「かあか(お母さん)」と

口にするようになった頃、

次はいよいよ

「とおと(お父さん)」だと

私は期待に胸を膨らませていた。

ところが、である。

思い通りにいかないのが子育て。

ある日突然、

ショータは私のことを

「ばいたい」

と呼ぶようになった。

もちろん、

こんな言葉を教えたことはない。

公園で

ショータが大きな声で

「ばーいたーい!」と叫ぶ。

私はバケモノなのか。

周りの親たちからしたら

そう捉えかねない。

グズるときは

「ばいてぇ~」

と涙声になる。

ギャル男みたいな

言葉の崩し方じゃないか。

月日は流れ、

3歳を過ぎた今でも、

私はショータに

「ばいたい」

と呼ばれている。

なお、

「ばいたい」=「お父さん」

という認識は

しっかりあるらしい。

私の名前もちゃんと分かっている。

なお、

「ばいたい」という言葉の意味を

ショータに何度か聞いてみたが、

いつも笑って誤魔化される。

もしかすると、

前世の記憶から来るモノかもしれない、

なんて思っている。

ここまで毎日

「ばいたい」と呼ばれていると

たまにふざけて口にする

「お父さん」に

少し寂しさを覚える。

まるで

「お父さん」と呼んでいた

思春期の息子が

ある日突然、

「親父」と口にしたときのような。

そんな感覚だ。

遅ればせながら、

私はもうすぐ

「お父さん」になるかもしれない。

ただ一つ気になること。

弟のコージが1歳になり、

少しずつ

意思表示ができるようになってきた。

私のことを指差して、

「ばっ!」

と言い始めた。

さすが弟。

兄の立ち振舞いを

日頃からよく観察している。

「お父さん」になるのは、

思っていた以上に簡単ではないようだ。

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